理系大学生のブログ

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一様に働く慣性力が剛体の重心にかかると見なしてよいことの証明

静止座標系に対して等加速度で移動する並進座標系から見たときに、剛体に働く慣性力を考える。 剛体全体に空間的に一様な加速度によって働く慣性力を一つの力と見なせたとすると、その力はどのようなベクトルだろうか。その作用点はどこだろうか 。


まず、ある複数の力と別の複数の力が等価であることの定義を述べる。\boldsymbol{F_1},\cdots,\boldsymbol{F_m}\boldsymbol{F_1}',\cdots,\boldsymbol{F_n}' が等価であるとは

\displaystyle{
\sum_{i=1}^{m}\boldsymbol{F_i}=\sum_{i=1}^{n}\boldsymbol{F_{i}'}\\
\sum_{i=1}^{m}\boldsymbol{r_i}\times\boldsymbol{F_i}=\sum_{i=1}^{n}\boldsymbol{r_i}'\times\boldsymbol{F_{i}'}
}

が成り立つことである。ここで、\boldsymbol{r_i}\boldsymbol{F_i}作用点とした。(プライム付きも同様。)

さて、慣性力と等価な一つの力のベクトルを\boldsymbol{F}とし、その作用点\boldsymbol{r_F}とする。 剛体の微小部分dm\boldsymbol{a}dmの慣性力が働いているとする。よって、

\displaystyle{
\boldsymbol{F}=\int\boldsymbol{a}dm\\
\boldsymbol{r_F}\times\boldsymbol{F}=\int\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{a}dm
}

上の第一式より

\displaystyle{
\boldsymbol{F}=\boldsymbol{a}\int dm=M\boldsymbol{a}
}

よって第二式は

\displaystyle{
\boldsymbol{r_F}\times M\boldsymbol{a}=\int\boldsymbol{r}dm\times\boldsymbol{a}\\
(\boldsymbol{r_F}-\frac{\int\boldsymbol{r}dm}{M})\times\boldsymbol{a}=\boldsymbol{0}
}

\frac{\int\boldsymbol{r}dm}{M}は重心に他ならない。よって\boldsymbol{r_0}に置き換えると

\displaystyle{
(\boldsymbol{r_F}-\boldsymbol{r_0})\times\boldsymbol{a}=\boldsymbol{0}
}

ゆえに

\displaystyle{
\boldsymbol{r_F}=\boldsymbol{r_0}+k\boldsymbol{a}\ \ (k\in\mathbb{R})
}

以上より、慣性力と等価な力は、ベクトルM\boldsymbol{a}で表され、その作用点は重心を通りベクトルaを方向に持つ直線上の 任意の点であることがわかった。このとき重心は\boldsymbol{a}によらず常に作用点になりうる。

まとめ

剛体に空間的に一様な加速度によって働く慣性力は、重心にある全質量に等しい質量を持つ質点に働く慣性力と等価である。

以上の議論は空間的に一様に質量に比例する力であればなんでも成り立つ。たとえば、重力についても同じことがいえる。 (重心の定義の仕方によっては明らかかも知れないが。)

今回は並進座標系を扱ったが、回転座標系における遠心力やコリオリ力などの慣性力は、重心に働く力とは一般にはみなせないことに注意する。とくに、 この証明における計算では証明できない。これは、 これらの慣性力を生み出す加速度が、空間的に一様には働かず剛体の微小部分の 位置に依存するため積分において外に出せないからである。もっと言うと、回転による慣性力は一般には重心に働く力とはみなせない。 *1

以下のサイトを参考にした。

hooktail.sub.jp

2020/11/19 微修正
2020/11/25 微修正

*1:この命題の否定の反例はまた記事にしたい。